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雀が楽しげに鳴きながら青い空を飛び回り、頬を撫でる風が暖かい春の朝。
そんな平和な朝にも関わらず、黒髪を揺らす1人の少年が、汗だくになりながら必死に並木道を走っていた。
彼の名前は鈴木太郎(スズキタロウ)。
容姿普通、頭脳普通、運動神経普通の、何処にでもいそうな普通な少年よりも更に普通な少年だ。
「おーい!太郎ー!」
急に背後から聞こえてきた声に太郎が振り返ると、そこには2人の男の姿があった。
1人は長めの茶髪を揺らしてニカニカ笑いながら駆け寄ってくる少年・飯塚次郎(イイヅカジロウ)。三度の飯よりお笑い好きな太郎の中学時代からの友人である。
もう1人は天へと向かって逆立っている炎のような赤髪が特徴的な大きな体の男・鷹見力蔵(タカミリキゾウ)。誰も近づけないような怖い外見を持つ元不良だが、今ではただの馬鹿である。
「ぶははっ!また遅刻ギリギリで登校かよ!」
「もっと早く起きないと駄目だぞ太郎!」
「全く同じ状況のお前らにそんな事言われる筋合いねぇんだよ!!」
太郎が次郎と力蔵にそう怒鳴りながら走っていると、曲がり角から急に女の子が飛び出してきた。
「うわっと!」
「キャッ!あっ!太郎君♪」
ぶつかりそうになった相手が太郎だとわかるや否や、女の子はそう言って微笑んだ。
長くサラサラと揺れる綺麗な黒髪が特徴的な彼女の名前は秋野木実(アキノコノミ)。容姿端麗で勉強もできるのだが、近年稀に見ぬ天然の持ち主。そして、太郎の彼女である。
「おはよう木実ちゃん!木実ちゃんが遅れるなんて珍しいね」
「実は靴を片方長靴履いてる事に途中で気づいて、1回家に戻ったんだぁ♪」
《まだ随分とおかしな間違いだな……》
太郎はそう思いながら苦笑いを浮かべた。
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