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太郎は久々に戻ってきたケータイを見下ろして、少しだけ思い出に浸っていた。
その時、
ブロロロロロ
突如、太郎を乗せないままリムジンが走り出した。
「うおぉぉぉい!!置いてくなよ天馬ぁぁぁ!!!」
「すいません太郎。定員オーバーです」
「嘘つけぇぇぇ!!!」
太郎の声も虚しく太郎とリムジンとの距離はドンドン離れていき、遂にリムジンは見えなくなった。
《畜生!覚えてろよ天馬!》
太郎がそう思いながら走り続けていると、突如後ろからやってきたスクーターが太郎の横についた。
「おぉ太郎!朝からええ運動してるやないか」
太郎にそう話しかけてきた大阪弁の女の子は、ヘルメットから栗色のショートの髪がはみ出していた。彼女の名前は神崎美花(カンザキミカ)。正義感が強く、腰にはいつも変身ベルトをつけている男勝りな女の子である。
「おぉ神崎!スクーター直ったんだな」
「あぁ♪天馬が直してくれたんや♪」
「そうか。つーか乗せてくれ!時間ヤバいんだよ!」
「それは無理な頼みやな」
そう言って美花は、親指で自分の後ろを指差した。
太郎が後ろに目をやると、そこには小柄な無表情の女の子がヘルメットを被ってチョコンと座っていた。
彼女の名前は水鏡澪(ミカガミレイ)。ヘルメットで隠れていて見えないが、髪は黒髪の短いポニーテール。訳あって男だと言い張っていたが、列記とした女の子である。学年は太郎達の1コ下で、次郎に溺愛されて困り果てている。
「申し訳ないっス太郎先輩」
「いやっ、まぁ仕方ねーよ」
「ほなそういう事やから。頑張りや太郎~」
美花はそう言ってヒラヒラと手を振り、無情にも太郎を置いてスクーターのスピードを上げていった。
ふと太郎がケータイに目をやると、時刻は8時27分。
残り時間3分。
《………遅刻確定か》
そう悟って春の青い空を見上げた太郎の目からは、キラリと光る物が1粒流れ落ちた。
こうして今日も、太郎の慌ただしい1日が始まる………。
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