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「ほう、やればできるじゃねぇか」
私はあの日の出来事を、この美しい毛並みを持っている猫に話した。
漆黒に光二つの瞳は鋭く、口も悪いけど、いいやつなんだなぁ、と心で感じて、今日はごはんを多めにした。
毎度のことながら、くっちゃくっちゃと、汚い咀嚼音を鳴らしながら美味しそうに食べていた。
「猫、のくせに、キャベ、ツ、とか、ごはんまで、食べるな、んて凄、いね」
「どうして?」
猫は素っ気なく、顔を皿に押しつけたまま言った。
「だって、猫は、魚とか、しか食べない、生き物じゃない?」
「かぁ~っ!」
突然、猫が変な声を発しながら、顔を上げた。
「分かっちゃいないなぁ。俺たち猫はな、別に魚が好物てわけじゃないんだぜ。本当は何でも食べるんだぞ」
「うっそ、だぁ、~。だって、アニメと、か、マンガじゃあ、猫、は魚好き、ってよく、表現され、てるじゃん」
「それはだな。日本が魚を食べる文化だからだ。知り合いの猫から聞いたが、インドなんかじゃ、カレーを喰うらしいぜ」
なるほど。
私は頷いた。
これまで考えもしなかった。猫と魚を結びつけていたのは、私が日本人だったからなのかもしれない。
国の地理的な条件が、食生活を決定する。食生活が表現物の内容を決定する。表現物の内容が独自の認識を決定する。
しかも無意識的にそれらは行われていて、猫は魚が好きに違いない、という価値観を疑うことさえ、私はしなかった。
猫はそれから、何も知らなかった私をたっぷりと罵り、帰っていった。
始めは、あの猫の態度にムカついていたけど、すぐに寂しさが裏返るように、攻めてきた。
その苦しさを我慢して、今日も一人でトレイを一階まで下げる。
「お、かあ、さん……。早く帰って、こない、かなぁ」
その母が、帰ってきた時、私はとんでもない知らせを聞くのだった。
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