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「まぁ、宗教てのは当人の自己満足だろう。いいことが起きれば、信仰を続けて良かったと言い、悪いことが起きれば、これは試練だ、と言い聞かす。ある意味、究極の前向きってヤツだ。俺は、当人が入って良かったと心から感じているなら、いいと思うぜ」
この猫が宗教賛成てのに、私は驚いた。そして俯いて、小さく舌打ちをする。
「だが――」
猫の口から漏れたような声がして、私は何か分からない期待に顔を上げた。
「俺が思うには、信仰を深めるため、外出や祈祷の時間を増やすよりも、もっと娘にかまってやった方がいいだろうと思うけどな」
まるで独り言のような小さな言葉。でも何だか嬉しくて目尻が熱くなった。
朝ごはんを済ませた猫は、もうここには用はない、といった感じで部屋を去ろうとした。
だけど、私はなぜだか、もう少しだけ話がしたくて、思わず呼び止めた。
「あん?」と面倒くさそうに振り向き、「何だよ?」
「あ、の……な、まえ、教えて」
そういえば、私はこの猫の名前を知らない。
「…………」
しかし、名前を尋ねたとたん、猫は表情を暗くして下を向いた。
今まで見たことのない表情に、私はドキリと、何か悪いことを訊いたのかもしれないと思った。少しだけ、後悔した。
「俺は野良だから、名前をつけるヤツなんかいねぇのさ」
それだけを言って、下へ向けていた視線をプイっと外へ移した。
「じゃあさ――」
不思議と口が無意識に動いた。
「名前、つけて、あげる」
私の言ったことに驚いた猫は、
「変な名前、つけんじゃねぇぞ」
と笑った。
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