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部屋に入ってまず目についたのが、病院で使っていたようなベッドだった。今まで何もなかった窓の下に、ずでーんと置かれていた。 ベッドは外からの光を直に浴びていて、暖かそうだった。 寝ながら見られるように、テレビがセットされていた。枕元には簡単な本棚が造られていて、私お気に入りな本が並べられていた。 母はその本棚にゆっくりと近づいて、 「マリがどれだけ自分の夢に、本気になっていたのか、お母さん、マリの部屋を覗くまで知らなかった。マリが本気で考えていたことなのに、お母さん、ひどいこと言ってしまって……」 母の目に、また涙が浮かび上がる。私にはただ首を横に振ることしかできなかった。 一週間後。 自宅での生活感を取り戻した私だが、食欲はどうしてだか、全くわかなかった。が、テレビや読書量は以前と比べて多くなかった。 窓を全開にして風を室内に招き入れる。雲はなく快晴だが、入り込む風のおかげで、暑くも寒くもない。 とても……静かだ。 階段を上ってくる足音を、生きているほうの耳が捉えた。 きっと朝食を運んできたにちがいない。 「マリ、ごはんよ」 やっぱり。 私の家では、仕事の関係で、朝は魚ものが良く出される。今日は刺身と白いごはん、そして病院から渡された得体の知れないカプセル。 母は、ベッドに備え付けられているテーブルをセットして、朝ごはんの載ったトレイを置くと、ろくに会話もしないまま、逃げるように部屋を出ていった。
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