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再び一人になった私は、すぐに箸をにぎることはなく、読書に没頭した。
母には悪いが、何も食べたくはないのだ。いつも、一つ二つつまむ程度で、残りはトイレへ捨てた。
仕事帰りのフラフラになった幽鬼みたいに変わり果てた母には、全部食べたと言っている。
こんな状態を知ったら、母は悲しむ……を通り越して死んでしまう。
どちらにしても、二度と母の泣いた姿は見たくなかった。
朝食が持ち込まれて、どれくらい時間が経っただろうか。気が付けば、窓に、猫が置物のように、ちょこんと座っていて、私を睨んでいた。
黒い猫。その毛並みはとても美しく、完璧な漆黒だった。
ぴんっと伸びた六本のヒゲと、力強いその眼が、コイツは雄だ! と直感させた。
猫はじぃっと私を睨んだ。
恐怖は微塵も感じなかった。
「猫さん、なに、か、御用、かしら?」
私はつい、話しかけた。
あらら、猫に話しかけるなんて、よほど淋しかったのかしら私。
そう一人でクスクス笑っていると、
「喰いてえ」
――え?
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