画策

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 ヴィル・ヴェルセリウスと名乗った青年の雰囲気に、ウィルは完全に呑まれていた。  大陸南部のエルフ族の民族衣裳である白と赤の縦線が入った着物を着ており、紅色の帯・帯留めがアクセントとなっている。更に灰色のコートを纏っており、それが同色である髪や目と調和している。  所々にちりばめられた宝石が光を主張しているにも関わらず、謙虚で柔和な面立ちが輝く事は無い。良い意味で゛地味゛な雰囲気をかもち出していた。   「実は、近々私も助手を一人採ろうと思いまして。人脈の広いパルテさんに誰か良い人物がいないか探して頂いたのです。」    申し訳なさそうに喋る探偵に、靴磨きの少年は少なくとも敵意は持っていなかった。   「僕を……試したんですね?」 「はい。申し訳ありませんが。道中で私がどう貴方を試したか、説明致しましょう。」    不思議と、ヴィルから上目線で話されても何の不満も無かった。彼は明らかに自分より優れている。その点を肌で感じてしまったのだ。   「道中…?」 「まずは私の家です。」    未だに驚愕で目が見開いているウィルを尻目に、私立探偵は嬉しそうに靴磨き台から立ち上がり、背伸びをした。     『今日は特別な日』      そう言ったパルテおじさんの笑顔が、ウィルの頭の中に浮かんだ。
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