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街を南に外れて、徒歩10分。エルフ族の暮らす『精霊の森』へと続く街道の入り口付近にそこはあるらしい。
「まずは観察力です。貴婦人なのにも関わらず、男性用の革靴に気付いた点は合格です。しかし、コートの中で男性用のスーツを着ていた事は気付きませんでしたね?」
「は、はぁ…。」
「声音と羽織り物だけを見れば明らかに女性です。しかし身につけているものは男性用。人を見るときは内を見る事が課題である事を、視覚的に強調しました。君はちゃんと外身の私を疑ったという点で、最終的には合格です。次に―」
(―よく喋るなぁ、この人。)
探偵の口から吐き出される洪水のような量の情報を、ウィルは頭に残さなかった。
否、残せなかった。
「あの…。幾つか質問をしても宜しいでしょうか?」
「――あ、はい。構いませんよ。」
自身の熱弁を中断されたにも関わらず、彼は快く承諾した。
「まず一つ目は、あの貴婦人の格好はどうやったのかという事なんですが…」
「―あぁ、あれは比較的簡単な魔法です。」
「魔法…?」
「…そうでした、ウィル君にはそこから話さなければいけないのでした。………とりあえず、詳しい話は我が家についてから話します。今ウィル君が知るべき事柄は2つです。」
「一つは、僕を助手にしたいという事ですか…?」
「…君は本当に素晴らしい。その通り。そして二つ目は、パルテおじさんに感謝すべきという事ですね。」
不安ながらも、憶測出来た事実を言っただけだった。まさか、この人に認められる程の力が自分にあるとは。少年の気持ちには、焦燥も混じっていた。
見るかぎり、裕福そうなこの人の下で助手になるというのは悪くない。貧乏な靴磨きよりかは稼げるはずだ。
だが、ダメなのだ。
少年にはある事情があるのだ。
そんな気持ちさえも見透かされているのではと、ウィルは考えながら探偵と道を共にした。
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