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「綺麗な歌い方する子だなぁ…プロか?マスター」
「いや、拾ったんだ。その辺で。」
「…拾った?…その辺で?なんだそりゃ。」
作られた灯りがまばゆい夜のバーに、今日も真帆は歌声を響かせた。
歌い続ける事が、真帆に残された唯一の生きる術だった。
「ねぇ、ねぇ、歌のお姉ちゃん♪」
「よせよ。その子は歌専門で雇ってんだ。」
「話し掛けただけだろ~」
「…なんでしょう。」
「おっ♪」
「やめておけ、真帆。酔っぱらいに付き合うのは。」
「なんでそんな歌上手いの~?」
「……生まれつきです。」
「じゃ~あ~、赤ん坊の時から泣く代わりに歌ってたんだね!」
「………。」
「歌手になりゃ良かったのに。そんだけべっぴんさんなら余裕だろ~。スカウトとかされなかったの?」
「されました。」
「まじ!なんていう事務所!?」
「…いえ…あの、妻夫木さんに。」
「…なぁんだぁ~コイツかよ!こんなさびれた店のマスターなんかじゃなくてさ、もっとでっかい事務所に売り出したり…」
「真帆、もういいから部屋に戻れ。」
「はい。お疲れ様でした」
真帆は、店の近くの古びたアパートの部屋に戻った。夜とは思えないほど、歓楽街は明るい。カーテンを閉めても、外のカラフルな光が透けて真帆を照らした。
男の怒鳴り声、若者の笑い声、はたまた誰かの狂ったような叫び声。
部屋中のありとあらゆる隙間から、暴音が流れ込んでくる。
真帆は、慣れすぎたこの部屋で、布団をかぶって眠りについた。
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