黄金色の恐怖

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  ニッキ飴がこわかった。   飛行機に乗ると客室乗務員が飴をひとつくれるのだが、小さい頃の私はニッキ飴を選ばないために神経の大半を使っていた。 間違ってニッキ飴を選んでしまったときは、もうどうしようもなく悲しくなってしまい、仕方なく母親にそれを渡す。隣にいる弟のレモン飴がひどく羨ましい。 飛行機が着陸するまで、私は貰ったものを蔑ろにしてしまったことに対して、申し訳ない気持ちにならなくてはならなかった。   また、隣に住む老夫婦のところへ回覧板を届けたことがあったが、そのときのお礼もひと掴みのニッキ飴だった。 小学生の私は再び悲しくなり、母親にそれを渡す。 しかし実のところ母親もニッキ飴が嫌いだったため、飴は壜の中でいつまでも窮屈そうにこっちを見ているのだった。   そうは言えど、私はまだ分別のつかない頃の数度しかニッキ飴を食べた記憶が無い。 それなのに今なお飛行機に乗る度に、回覧板を届ける度に私を緊張させるニッキ飴の恐怖。 きっとそれは好意への後ろめたさが壜を見る度に増幅されるような、そういうものだろう。   いつのまに壜は空になっていたけれど、きゅっと辛いあの輪郭を思い出すと、今でも私はこわくなってしまう。     end.
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