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【見境】
深澤恋菜は譜面を見ながら、笑みを浮べてパイプ椅子に座る。
「…えっと…深澤さんはなんで俺の名前を?…」
「綾から聞いたんだよ。部活をサボる不良な友達が居るって!!」
深澤は譜面に向けられた目を俺に変えると、また満面の笑みを浮べた。
…この雰囲気…懐かしい
懐かしいじゃない…苦しい
俺は一瞬、深澤の姿を別の人に置き換えてしまう。
悲しくて苦しくて
…でも嬉しくて
「どうしたの凱くん!?」
「えっ…」
深澤は俺を〝凱くん〟と呼んだ。俺は動揺した。目の前の女の子は深澤恋菜って人なのに、俺は別の人の顔を思い出す。
…決して忘れた訳じゃない…あの出来事、記憶
「大丈夫?…」
「だっ大丈夫!!…なんでもないから、ごめんね深澤さん」
屋上に居て、作詞をして、綾の友達の深澤恋菜
彼女の時々見せる笑い顔は、俺にとってとても切ないものだった。よくわからないまま最後に俺は謝った。
「なんで謝るかなぁ…変な人」
深澤はまた笑う
「それにしても…こんなにいいメロディーが作れるなんて!!君って凄いんだね!!」
彼女の笑顔は俺の記憶の器を揺らす…辛い記憶を呼び起こす
俺は黙り込んでしまった。
「……凱くん?」
アイツはもう居ないのに、俺は最低だ…過去に囚われた俺は深澤の顔が見れなかった。
「なぁ…深澤さん」
「何?」
「悪いんだけど、俺…用事あるから、」
適当な言い訳をして、俺は帰ろうとする。最低な俺
「ねぇ!!また此所に来るでしょ!!」
彼女は笑顔で俺の返答を待つ
俺は〝ああ…〟と言い残して教室をでる。
後には罪悪感だけが残る。
たった15分程度の合間がとても長かった気がする。
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