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【幻影】 「…いてー…」 誰かが俺に笑っている。 「…凱くん…わた……うた……ら…から…いてー…」 彼女は俺をピアノの側まで引っ張る。 …彼女?って誰だ? 顔が朧気だが見えてきた。 …この声…懐かしい 「…凱くん…わたし…うた…からたから…いてー…」 聞こえて来る言葉が木霊する。 それと同じく彼女の顔がわかってくる。 「ねぇ凱くん…わたしがうたうからだから…いてー…」 俺は目を疑った… だってその人物は俺にとって苦しくて切なくて… 「ねぇ凱くん!!私が歌うから、だから弾いてー…」 言葉がはっきりと聞こえた瞬間、俺の後頭部に衝撃が走った。 …… ……… ………… …………… 「岳羽ー!!!!…」 誰かが俺を呼ぶ声 次はオッサンの声だった。 気が付くとそこは教室の自分の席 顔を上げると、黒の眼鏡をした厳つい先生が居た。 「岳羽ぁー!!…減点な!!」 満面の笑みを浮べて、その言葉を伝えると、先生は教卓に戻った。 その後、健治が俺を見て笑いかける。 「はは!!バーカ…ん?カイ?」 健治は不思議そうに俺を見る。 「どうした?健治」 「いやぁ…だってお前泣いてるし…」 「えっ!!」 言われるまでわからなかった。 また健治は不思議そうに俺を眺める。 「おい…大丈夫か?なんかあったん?」 「だっ…大丈夫だ。なんでもないから」 俺はそう健治に告げ、即座に顔を拭く 「……あっそ…ならいいけど」 健治はまた前を向く 俺は窓の向こうを眺めて、先程の夢を思い出す。 俺が泣いているのを彼女が知ったら悲しむかな? ってか彼女はもう居ないんだから… 俺は弱いな… 今日は9月1日… そうか…もうすぐだな 彼女が俺の前から消えた日 そして彼女がこの世にサヨナラした日が…  
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