夏の女の子

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【調和】 あと4日で8月も終わる。 夏が終わる。 放課後の第二音楽室… 今日はテスト期間で午後の授業がない… 第二音楽室ってことは軽音楽部の賑やかな場所なんだけど、今日は全員出払っている。流石にテスト期間だからね、皆必死なんだろう… でも俺は学力もあまり問題は無く、別に高い得点も狙っても無く、ただ今を楽しみたいだけ… ピアノに触れていたかったから、俺はここに居る。 そんな時だった… 壁の向こうから歌声が聞こえた 隣りは第一音楽室、居るのは吹奏楽部か音楽部だろう でも…一人 女の子ひとりの歌声 「キミ……いたくて…わた…の心は……キミの……で…」 透き通った声… 隣りの教室で、とぎれとぎれしか聞こえなくて、歌詞がよくわからない。でも初めてなメロディー…何か温かく感じる。 その歌声を耳を通して感じていた俺…俺の手は、ピアノを弾きたいと訴えていた。 俺自身、わからなかった。 ピアノの白と黒の鍵盤を見る。俺は弾きたいと思っていた。自分ではどうすることもできなかった。 気付いた時には、歌声のメロディーに合わせて手を動かしていた。 弾き始めは相手も驚いただろう。やはり歌うのをやめる。 しかし…壁の向こうの女の子はまた歌い始めた。 今度は俺に聞こえるように大きな声で…何か楽しそうだ 「わたしは欲しい…キミとの絆…想いよ届け…キミへの想い…この青い空が繋ぐ世界で…大好きなキミへ…」 俺は〝楽しい〟と思った。 歌い終わったらしく、俺も簡単な演奏をして締めた。 壁の向こうの女の子が気になった。会ってみたかった。 俺は第一音楽室へ向かった。扉を開くと、もう誰も居なかった。 窓も開けたままで、風でカーテンが靡いている。 俺はため息を吐き、窓を閉める。もう帰ろうと扉に触れる直前に、テーブルに目をやって気が付いた。 備え付けの白いテーブルに、一つの水色のペンケースが無造作に置いてあった。 可愛らしい水色で、金具の右上にはプリクラが貼ってある。 …もしかするとさっきの女の子だろうか… プリクラを見る…多分、持ち主が写っている。それと…一枚のプリクラには綾が写っていた。 綾に聞けば… 俺は水色のペンケースを手に取ると、音楽室を去った。  
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