060 疑惑

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「真犯人に心当たりがあるんですね?」 「いや、心当たりじゃなくて、真犯人そのものは、広報部は前から知ってる」 紗矢が、すぐにそう答えた。 翔はそれには流石に目を丸くした。 「知っ………てるんですか?」 「でもぉ、ちょっと訳ありでねぇ…」 広報部は簡単に情報は提供しないことが基本だ。 広報部の情報は、信憑性が高いものが殆どだが、扱い方によれば、適当な噂話に発展してしまう。 それだけは避けたいがために、簡単にこんな、『生徒会』という学園の中枢に推測を話すことは、避けたい。 「とにかくっ!京ちゃんは、やってない。 それを証明する為にも、京ちゃんは僕ら広報部が責任を持って捜し出すから、生徒会は体育祭の進行に力を入れてください。」 秋は珍しく真面目口調で、そう翔に言う。 翔はそんな秋を見て、渋々頷く他にない。 ここは広報部に任せて、 とりあえず体育祭を無事終わらせることが、生徒会としてとるべき行動だろう。 「協力が必要だったら、いつでも呼んでくださいね?」 そう一言付け加えると、秋は頷いた。 「紗矢、行こう」 翔から情報を得た二人は、そのまますぐに生徒会テントを後にした。 「まずその被害者とやらが、友田の思惑通りに間違った噂を広めないよう、口止めしないとな…」 速い歩調で歩きながら、紗矢がそう言うと、自然と二人は翔が言っていた保健室へと向かった。 「何か情報掴めるかも知れないしねぇ」 そう呟いた秋は、どこか予感していた。 被害者たちには、何か、京哉にやられるだけの心当たりがあるのかもしれない、と。 『大事にしたくない』というのがどうも引っかかる。 大体の暴力沙汰の被害者は、自分がどれだけ酷い目にあったかを、どこか主張したがる傾向があるし、 主張しないにしても、それなりに、加害者を裁くために、アクションを起こすのが一般的。 なのに、大事にしたくないというのは、どこかすっきりしない。 京哉を虱潰しに捜すよりかは意味のある行為だろう。 と思った秋は、分かれて行動することをせず、紗矢を連れて保健室に向かった。 紗矢もどこか秋と同じく感づいているようで、異論を唱えず、秋の横を歩く。 さして時間もかからずに保健室に着くと、二三回ノックして、勢いよく扉を開けた。
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