061 最後の1ピース

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──『嫌う』。 そう、嫌うだろう。 これが一番俺を苦しめる。 けど、よく考えれば、ちょっと前の俺らに戻るだけじゃないか。 いつきは俺を嫌っていた。 会話だって、 丸々一年、してた記憶がない。 前に戻るだけ。 だけど、そう考えると涙が不意に、右目から静かに落ちた。 嗚呼、こんなにも悲しい気持ちになったことがあっただろうか。 ゆっくり上を向くと、もう涙が落ちることはなかった。 が、視界が霞む。 「…………くそっ、」 頭の回転が早いのも考え物だ。 こうやって、現状把握が出来るが、つまりそれは現実をしっかりと知ることができてしまう。 だからこそ、焦燥感に駆られる。 早く、早く、誤解を解きたい。 ───ガタッ そう考えながら尚も上を向いたままでいると、不意に物音が扉の方からした。 扉を注意して見ると、扉がゆっくりと開く。 そこには……‥ 「久しぶりだね、篠田君。」 「……か、兼田先輩、」 体操着姿の兼田先輩が部屋にそう言って入ってくる。 予想外の人物の登場に全く頭がついてこない。 唖然と先輩を見れば、先輩は部屋をぐるりと見渡すと、京哉の方を向いた。 「………なるほど。」 そう呟くと京哉に近づく先輩。 (え、……何が「なるほど」?) 混乱する京哉とは逆に、落ち着いた足取りで向かって来る先輩。 訳が分からず動けない。 「実はね、礼に呼ばれて来たんだ。」 そう言うと座っている京哉に視線を合わせるように、丁度京哉の向かいにあるソファーに座る先輩。 一方の京哉は何も答えられずにいた。 (兼田先輩は苦手だ…‥) この人は何を考えてるのか、全くわからない。 顔には勿論出ないし、何より実力で「次期部長になる」手前まで来てた人だ。 それなりに頭も回るし、だからこそ一つ一つの行動の意味を考えてしまう。 「多分、……思う存分、篠田君に仕返しをしろって意味だろうねー…」 京哉の赤く腫れた足を見ながら先輩は無表情でそう言う。 一方の京哉はその言葉に冷や汗が伝う。 仕返し……だと…? でも、俺はっ………‥ 「先輩を落とす為に、俺がやったと、……先輩も思ってるんですか?」 出来るだけ落ち着いた口調でそう聞けば、先輩は、少し口角を上げて笑った。 「まさか。そんな風に思ってるのは礼くらいだよ。」 今度は自嘲気味に笑った先輩に、思わず眉間に皺をよせてしまう。
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