061 最後の1ピース

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「真実を話してあげる。」 怪訝な顔をした京哉を見て、天井の方を見ながら先輩は言葉を続けた。 斜め上を見る先輩の表情は、何かを決意したかのように見える。 「あの日、礼をヤったのは確かに俺だ。 友人に気絶させてもらい、 目隠しさせて、確かに強姦した。 教師に見つかったのも、計算のうち。 そうすることで、俺は礼から離れることができた。 嫌でも教師の目が光るからね。 そうして礼から離れたままでいようとしたけど、礼は俺がやったとは思ってなくてね。 あんまり俺が礼から離れていくから、礼はこんなことをしたのかな……‥ 大方、俺が礼から離れていくのを、篠田君のせいだとか思って、 自分とは反対に恋人なんか作って幸せになっていく君が許せなかったのが理由だろう。 浮いた話が急に最近騒がれるようになったからね、篠田君は。」 「なんで、そんなに……離れたいんですか?」 あまりに衝撃的な告白に、聞き流すなんてことは出来ず、思わず聞いてしまう。 先輩は体を少しも動かさず、天井を見つめたまま、淡々と答える。 「なんでだと思う?」 わざわざ教師にまでわかるようにして、 それでいて、 礼には目隠しをして自分だとわからせないようにして、 自分から望んで停学をくらい、 そして、自分から望んで、礼から離れただなんて……。 そんな行動の理由なんて全くと言っていい程思いつかない。 「……情けない話、 あのままじゃ、俺、礼を好きになって嵌っていくところだった。」 やがて静かに言い放つ先輩の言葉は冷たい。 「篠田君にどういう印象を持たれてるのかは知らないけど、とりあえず俺、ほんと、利己的なんだよね。 一度礼を抱くこともできるし、 あの方法が一番だと思った。 流石に礼と顔を合わせながらするほどの、勇気はなかったんだけど。 礼に嵌ってしまったら俺は駄目になる。 人を好きになって骨抜きになって弱点だらけになった奴を、何人も見てきた。 広報部の上の仕事やるようになって、わかるだろ? 青春期の今、一番問題が起こりやすく、部が取り扱うのは色恋沙汰。 そんな風になっていく自分は嫌だったし、広報部の部長は内心面倒に感じていたし。 手っ取り早く、全て無にしたつもりだった。」
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