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「被害者たちは『それなりの理由があるから』って、篠田がやったと思い込んでて、……んで、秋が否定してやった。
ま、はなから広める気はなかったみたいだけど。」
「………そうか。」
そう言ったきり、何かを考えるように黙り込む京哉。
大して驚いた様子でもないところからして、あらかじめ予測できていたのか……、礼に言われていたのか。
どっちにしろ、俺らにはわからないことだらけだ。
変な推測に拍車がかかる前に、本人の口から聞きたい。
紗矢は、椅子の前にあったソファーに座って手足をさすっている京哉の方に一歩踏み出す。
「なぁ、」
京哉は視線を俺に向ける。
「何でお前、こんな…‥」
言いたいことは伝わったようで、京哉は閉じたままだった口を開いた。
「俺が巻き込まれた理由は、……簡単に言えば、『とばっちりを受けただけ』ってとこかな。」
「は?とばっちり?」
「あぁ。移動しながら話してもいい?
友田のところに行く。」
「あ、あぁ…てか、足、そんなんで大丈夫なのか?」
京哉の片足の脹ら脛には、うっすらと痣になる手前の内出血の痕があるし、両足首には赤く擦り切れた痕がある。
部分的だが十分痛々しい。
体操着だから、隠す術がない。
「これくらい大丈夫だから。」
そう言って立ち上がる京哉。
やはり痛むのか、一瞬京哉の顔が歪んだのを紗矢は見逃さなかった。
それでも歩き出した京哉に、紗矢は短くため息を吐くと、京哉の横を歩いた。
「そういえば、兼田先輩と会ったんだ。篠田のところに来たんだろ?」
気になることは沢山あるが、部屋から出る前にこれだけは聞きたい。
「……来たよ。」
「その痣、先輩が?」
「いや、友田が。」
玄関手前で止まったまま交わされる会話。
京哉はふと周りを見渡した。
「そういえば……ここ、どこ?寮?」
今更ながらの質問に、思わず吹き出してしまったのは言うまでもない。
「あぁ、地下の階だよ」
「よく見つけたな」
「兼田先輩と会わなかったら多分、今頃、寮中走り回ってるよ」
「兼田先輩……か。」
そこからまた上に上がるまでの間、京哉の口から、京哉と兼田先輩との間に交わされた話が語られた。
兼田先輩の一方的な歪んだ愛を。
そして、それに翻弄され、事態を引き起こした礼の苦痛な叫びを。
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