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~いつき視点~
京哉がいない。
もう体育祭も終わりなのに。
「次は、体育委員長の言葉。」
司会のその声に、仕方なく壇上に上がり、適当なことばを喋る。
上から見れば、全校生徒が見渡せるのに、そこには京哉の銀髪がない。
(───捜さなきゃ。)
体育祭を仕切る委員会の長なだけあって、なかなか会が終わるまでは動けずにいたが。
もう、後はほかの奴に任せても大丈夫だ。
いつきは壇上から降りると、そのままグラウンドの外へと足を運んだ。
(何かあったのか……?)
不安な気持ちがいつきを支配する。
怪我?トラブル?
生徒会の奴らに聞いても、わからないとしか言わないし、
広報部が責任持って捜すって言ったって、見つかってないじゃないか。
焦る気持ちから、いつの間にか全速力で走っていた。
「東雲!」
すると、校舎の昇降口の方から、俺の名を呼ぶ声。
そこには制服姿の青っぽい黒髪の男がいた。
タイの色からして同い年。
よく見れば、どこかで見たことがあるような顔だ。
「誰?」
近づいてくるそいつに向けたその言葉は、無意識に冷たくなった。
もう目の前に来た彼。
うかがうように、また俺の名を繰り返し聞いてくる。
「東雲だよな?」
「そうだけど?お前は?」
「あ、俺は友田 礼。」
「……で?何の用?」
京哉を一刻も早く捜したいという気持ちから、言葉がどうしても刺々しくなってしまう。
「篠田と仲良いってか…付き合ってるんだろ?」
「あぁ、そうだけど?」
いきなり出てきた京哉の名前に、いつきは驚いた。
「──俺、すごいもん見ちゃってさ…‥篠田が弱そうなちっさいのをぼっこぼこにさせてたんだよ、体育祭ほっぽらかして。
やばいなぁと思ったんだけど、俺、強くないし。
篠田とも、知り合いでもなんでもないから、隠れることしかできなくて…」
「───京哉、が?」
あまりに予測していなかった内容に、いつきの頭がついていかない。
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