064 暖熱の温度

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それを感じれば、京哉はもう、喘ぐしかない。 ぬちゃぬちゃとした、        粘質のある水音。 高いとは言えないが、     艶やかな京哉の喘ぐ声。 時折途切れる、     いつきの激しい呼吸音。 軋むベッドの音に、 シーツの立てる、布の擦れる音。 その全てが、この空間を振動しあって、お互いの興奮を高める。 「愛してるっ、京哉、っ」 「おっ、れも、」 ようやく言葉に出来たのは、そんな短い会話。 言い終えるのとほぼ同時に、熱いモノが中を満たしていくのを、京哉は感じた。 心と、────後ろを。 (くはっ、熱い、……) それを感じると同時に京哉のそれも、欲望を吐き出し、白濁を腹の辺りに撒き散らす。 どくどくと全身で感じる、自らの解放と後ろに注ぎ込まれていく液体の温度。 暖かくて、熱い。 心と身体が満たされるとは、まさにこのことだろう。 京哉は、幸せを噛みしめた。 (やっと、   やっと身体も一つになれた) 満足感に二人が浸ること、数分。 京哉の中に深く収まったモノを、ようやくゆっくりと抜くと、いつきは京哉を抱きしめた。 京哉はその抜かれる何とも言えない感覚に、声を漏らした。 「京、……」 「なに?」 「ほんとに、京は、   ──京哉は、俺のだよな?」 「今更、」 「あぁ、ほんとに京哉だ。」 子供のように、そう言ってキツく抱き締めてくるいつき。 たまらず、京哉も同じくらいキツく抱き締めた。 物質的に、現実的に、 そうやって物事を確認できて初めて、人間は不確かなモノを理解できるのだろう。 確かに心の中にくすぶっていた不安な気持ちは、いつきの中では、まだ未消化なままだった。 まだ自分は、心の底からはいつきを愛せてないんじゃないか、という不安な気持ちは、京哉の中にも確かに少しあった。 それを、やっと消化出来た。 それを、やっと確かめられた。 礼との件で、アブノーマルな体験をしたからだろうか。 酷く、今が幸せに感じる。 「京、泣いてる…」 そう言って目元を舐められて、初めて自分が泣いていることに気づいた。 こんなの俺らしくない。 そう言ういつきも、どこか湿った目尻。
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