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目が覚めたら、目の前は真っ白だった。
否、この表現はおかしいかもしれない。
なぜならば、ワタシには眠りについた記憶が無いからだ。
気が付いた時には真っ白な世界にいた、と言うのが正しいだろう。
ふむ、これならば納得がいく。
しかし、なぜワタシはここにいるのだろう。
肝心なそれがまったくもって思い出せない。
それだけではなく、ワタシが何処の誰かさえ分からない。
「これは……困ったな」
分かるのは声からして若い男だと言うことぐらいだ。
鏡が無いため顔すら分からないが、視界に入る前髪はこの世界と同じ白。
着ている服も、ベルトや靴もすべて白い。
ワタシはよほど白が好きだったのだろう。
そして服が汚れないように神経を使っていたに違いない。
でなければ、洗濯が好きだったはずた。
わざわざ汚れが目立つ白い服を着ているのだから(それも全身)。
以前のワタシについて想像するのは面白い。
面白いが……今、考えなければならないのは別のことだ。
今までのワタシが気にならないわけではないが、これからのワタシがどうするべきかの方が重要である。
「とりあえず、歩いてみよう」
歩いていれば、何処かへ繋がるかもしれないし、誰かに会えるかもしれない。
待ち人は……思い出せないので、いないことにしよう。
踏み出した一歩。
足の裏の感触は固くて歩きやすそうだ。
「ふむ、これなら行ける」
何処までも続く白の世界をワタシは歩き出した。
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