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我が家ではお父さんは鍋奉行だった。
しゃぶしゃぶの時も、お肉はお父さんの前に全て置かれ、肉を鍋に入れるのも、しゃぶしゃぶした肉を分けるのも、お父さんの役目だった。
お父さんは、1枚1枚セロハンにつつまれた霜降りの上質なお肉を、丁寧に1枚鍋に入れた。
みるみるお肉は色を変えた。
(美味しそう✨)
少しピンクがかった色になると、鍋から上げ、弟の器に入れた。
「ほれ、隆。食えよ😃」
「やったあ!いただきまぁーすっ」
弟は無邪気に笑って、美味しそうにお肉をほおばった。
お父さんはそんな弟を見て、笑顔で
「うまいだろぉ」
と言った。
そして2枚目のお肉を鍋に入れ、今度はお母さんの器に入れた。
「ほれ。かあさん。」
「私はそんなにお肉はいらないから、これだけでいいよ。」
「そんなこと言わずにたくさん食えよ😃」
お母さんは遠慮したわけじゃなく、私と同じで漬物や煮物が好きで、お肉はあまり得意じゃなかった。
平日は私と弟とお母さんの3人で夕飯を食べることが多かったけど、
「お父さんがいないと好きな物を食べられる」
と、お母さんはいつも言っていた。
もちろん毎日お父さんのために夕飯を作り置きしていたけど、3人とはいつも別メニューだった。
お母さんがお肉を食べ始めると、お父さんは満足そうな顔をして
3枚目のお肉を鍋に入れた。
(私の番かな?)
この順番待ちは、普通の家庭から見たらかなり異様な光景かもしれないけど、これがいつもの我が家のしゃぶしゃぶの食べ方だった。
ワクワクして待っていると、お父さんは鍋から上げた3枚目のお肉を自分の器に入れると、菜箸を置いて自分の箸に持ち替え、お肉を食べ始めた。
え?私の分は?
サラダを食べながら弟と話してたお母さんが気付いて、少しきつめにお父さんに
「小夜子の分は?」
と言ってくれた。
するとお父さんはわざとらしく
「おぉ、そうだった。腹いっぱいじゃないんか?」
私は小さく
「…食べれる」
と答えた。
お父さんは菜箸に持ち替えて、とりあえずお母さんにご飯のおかわりを頼んだ。
お母さんが席を立つと、お父さんはそのまま菜箸で鍋の中に残ったお肉の切れ端をかき集め、私の器に入れた。
「ほれ、食え。」
渡された器に浮かぶ小さな肉の切れ端。
アクに隠れて、ほとんど肉だと分からない。
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