《清水 沙弥》-1-

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「あ…っと、ごめん沙弥、消しゴム貸して」 「わっそっちのは駄目!こっちの新しい方貸してあげる!」 休憩時間中、プリントをやっていたぼくは消しゴムがない事に気付き、沙弥の筆箱に手を伸ばした。 小さな消しゴムと真新しい消しゴム。 沙弥は新しい消しゴムをぼくに渡してくれた。 「使い掛けの方でいいのに」 「こっちはダメなのー」 「…。」 ふと、思い浮かんだことを言ってみた。 「もしかして、好きな人の名前書いて使い切ったら~みたいなおまじないしてんの?」 「それは家で使ってる。そうじゃなくてぇ~、これはね、石村くんが拾ってくれたの~!」 頬を少し染めて、ばしばし叩かれた。結構痛い。(ていうかおまじないやってんのか、冗談のつもりだったのに) 「石村?って石村和史?」 「うん!」 照れてるのかなんなのか、沙弥は小さい消しゴムを手の上で弄っている。 石村和史は同じ8組の男子だ。 あまり見目麗しい方ではなく、女子には人気が少ない。(ぼくが言えるものでもないけど) けど、沙弥のこの態度は明らかに石村に好意を持っている。 「なんかあったの?」 「あのねぇ、昨日移動教室の帰りに石村くんとぶつかっちゃって!私荷物落としちゃったの。そしたら石村くんがね、転がってったこの消しゴムわざわざ拾ってくれたの~っ」 「それだけ?」 「うん。優しいよね石村くん~。素敵っ」 沙弥の目は教卓付近で友達と話してる石村の背中を捉えている。 少女漫画でいうなら目はハート、バックに花でキラキラトーンって感じ。 「…この前テニス部でかっこいいっつってた坂本は?」 「彼女いるらしいよ~?」 入学してから約一か月、既に三人くらいは代わっている沙弥の好きな人。 確か最初の奴は、黒板消してる背中が良かったとかいう理由で、出席番号1番の浅倉だった。 沙弥は常に誰かに恋をしていたいらしい。 仲良くなってすぐの頃、「高校でしたいことある?」と聞いたら、「かっこいい人に放課後の教室とかで告白されて、帰りに手ぇつないで制服デートしたいの~」と教えてくれた。 好きなタイプは優しい男、理想の男は白馬に乗った王子様だそうだ。 それをぽわぁっとした顔で真剣に語れる沙弥は、とても個性的であると言える。 ぼくの友達第一号(清水沙弥)は、恋に恋するメルヘンチック少女だった。
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