0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「あ…っと、ごめん沙弥、消しゴム貸して」
「わっそっちのは駄目!こっちの新しい方貸してあげる!」
休憩時間中、プリントをやっていたぼくは消しゴムがない事に気付き、沙弥の筆箱に手を伸ばした。
小さな消しゴムと真新しい消しゴム。
沙弥は新しい消しゴムをぼくに渡してくれた。
「使い掛けの方でいいのに」
「こっちはダメなのー」
「…。」
ふと、思い浮かんだことを言ってみた。
「もしかして、好きな人の名前書いて使い切ったら~みたいなおまじないしてんの?」
「それは家で使ってる。そうじゃなくてぇ~、これはね、石村くんが拾ってくれたの~!」
頬を少し染めて、ばしばし叩かれた。結構痛い。(ていうかおまじないやってんのか、冗談のつもりだったのに)
「石村?って石村和史?」
「うん!」
照れてるのかなんなのか、沙弥は小さい消しゴムを手の上で弄っている。
石村和史は同じ8組の男子だ。
あまり見目麗しい方ではなく、女子には人気が少ない。(ぼくが言えるものでもないけど)
けど、沙弥のこの態度は明らかに石村に好意を持っている。
「なんかあったの?」
「あのねぇ、昨日移動教室の帰りに石村くんとぶつかっちゃって!私荷物落としちゃったの。そしたら石村くんがね、転がってったこの消しゴムわざわざ拾ってくれたの~っ」
「それだけ?」
「うん。優しいよね石村くん~。素敵っ」
沙弥の目は教卓付近で友達と話してる石村の背中を捉えている。
少女漫画でいうなら目はハート、バックに花でキラキラトーンって感じ。
「…この前テニス部でかっこいいっつってた坂本は?」
「彼女いるらしいよ~?」
入学してから約一か月、既に三人くらいは代わっている沙弥の好きな人。
確か最初の奴は、黒板消してる背中が良かったとかいう理由で、出席番号1番の浅倉だった。
沙弥は常に誰かに恋をしていたいらしい。
仲良くなってすぐの頃、「高校でしたいことある?」と聞いたら、「かっこいい人に放課後の教室とかで告白されて、帰りに手ぇつないで制服デートしたいの~」と教えてくれた。
好きなタイプは優しい男、理想の男は白馬に乗った王子様だそうだ。
それをぽわぁっとした顔で真剣に語れる沙弥は、とても個性的であると言える。
ぼくの友達第一号は、恋に恋するメルヘンチック少女だった。
最初のコメントを投稿しよう!