687人が本棚に入れています
本棚に追加
幸い、男が追いかけてくる気配はない。
大通りに出たものの、僕は途方に暮れてしまった。
時間帯が悪いせいか、タクシーが1台も捕まらない。
かといって、こんな目立つスーツ姿で電車には乗りたくない。
同じ理由でバスも却下。
「はぁ~」
バス停に設置されているベンチに座り、僕はため息をつく。
「見つけたぞ」
その声に、僕は思わず逃げる。
けれどそれよりも早く、男の手が僕の腕を捕らえた。
「僕に付きまとって、貴方に何の得があるわけ!?」
体格差がありすぎるせいで、どれだけ暴れても、ビクともしない。
それどころか、腕を掴む手に増す増す力が込められる。
「一緒に居た鵜飼氏からの伝言だ。悠貴をマンションまで送ってやってくれだとさ」
「そんな言葉、僕が信じると思ってるの?」
大体、得体の知れない相手に、父がそんな事を頼むはずがない。
「残念ながら、事実だ」
僕は空いている手で携帯を掴み出し、父のメモリを呼び出し、通話ボタンを押した。
『悠貴、どうかしたの?』
忙しいはずなのに、父の声は至って穏やかだ。
「誰かに、僕を送るように頼んだ?」
そんな父を、無駄話に付き合わせるのも気が引けて、本題を切り出す。
最初のコメントを投稿しよう!