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幸い、男が追いかけてくる気配はない。 大通りに出たものの、僕は途方に暮れてしまった。 時間帯が悪いせいか、タクシーが1台も捕まらない。 かといって、こんな目立つスーツ姿で電車には乗りたくない。 同じ理由でバスも却下。 「はぁ~」 バス停に設置されているベンチに座り、僕はため息をつく。 「見つけたぞ」 その声に、僕は思わず逃げる。 けれどそれよりも早く、男の手が僕の腕を捕らえた。 「僕に付きまとって、貴方に何の得があるわけ!?」 体格差がありすぎるせいで、どれだけ暴れても、ビクともしない。 それどころか、腕を掴む手に増す増す力が込められる。 「一緒に居た鵜飼氏からの伝言だ。悠貴をマンションまで送ってやってくれだとさ」 「そんな言葉、僕が信じると思ってるの?」 大体、得体の知れない相手に、父がそんな事を頼むはずがない。 「残念ながら、事実だ」 僕は空いている手で携帯を掴み出し、父のメモリを呼び出し、通話ボタンを押した。 『悠貴、どうかしたの?』 忙しいはずなのに、父の声は至って穏やかだ。 「誰かに、僕を送るように頼んだ?」 そんな父を、無駄話に付き合わせるのも気が引けて、本題を切り出す。
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