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そういう事か…。
ならば、この男に素顔を見せる必要もない。
利用するなら、僕も利用させてもらうだけ。
「まさか貴方が、一条寺グループの総帥だったとは、知らなかったとは言え、失礼いたしました」
ペコリと頭を下げれば、男が息を飲む気配が伝わってくる。
普段ならば絶対にしない、対外的な話し方。
これも、お祖父様の屋敷に居る時に、教えられた。
上に立ち、自分よりも目上を相手にするなら、絶対に表情を変えてはいけない。
それがお祖父様の教え。
「送っていただけるのですよね?」
「ああ、鵜飼との約束だからな」
「それでは、よろしくお願いします」
男に掴まれていた腕は、いつの間にか解放されている。
「車はホテルの駐車場だ。そこまで来てくれるな?」
質問形だけど、その口調は拒否を許さない響きが含まれている。
仕方なく、僕は男の後ろを一歩離れてついて行く。
ホテルまでの道程に、会話はない。
それが唯一の救いだった。
まだ慣れないせいで、あの話し方はかなり疲れる。
自動ドアをくぐり、フロントの前を通り抜け、エレベーターホールへ。
エレベーターを待つ間も、会話はなく無言状態。
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