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なのに、気まずさはなく、沈黙さえも気にならない。 やがて停止したエレベーターが、客を全て降ろし、僕たちを中に招き入れると、扉が閉まった。 そして、エレベーターの下降とともに、僕の身体は壁に押さえつけられた。 「なに……っうん…」 言葉が意味として繋がる前に、僕の唇は男のソレによって塞がれてしまった。 「そんな瞳(め)をしても、逆効果だぞ」 耳元で囁かれ、男の息に身体が反応してしまう。 「どいてよ」 取り繕う事さえ忘れ、僕は、必死で男を押し退ける。 「ようやく、普通に喋ったな」 男が満足そうに頷き、僕から離れる。 「何がしたかったわけ?」 エレベーターから降り、一歩先を歩く男に、思わず問いかけてしまう。 「敢えて言うなら警告だな。お前のその容姿と、あの喋り方。あんまりにもストイック過ぎて、泣かせてみたくなる」 「なっ……」 あまりの言われように、僕は言葉を失ってしまった。 泣かせてみたいってどういう意味? 生意気でムカつくって事だとしたら、文句は僕じゃなくお祖父様に言って欲しい。 僕にそう教育したのは、他でもなくお祖父様なのだから…。 大体、泣かせるのとさっきのキスに、何の関連がなるわけ? 「おい、どこまで行くつもりだ?」
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