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そんな事を考えていたせいか、呼び止められた時には男の前を素通りしていた。
はっきり言って、こんな男の車になんて乗りたくない。
だけど、父がこの男に頼んだ以上、僕に拒否権があるはずもなく…。
渋々、方向転換をして、男の所まで戻る。
「運転席に座るつもりか?」
車に詳しくない僕は、いつもの習慣で、左側に立っていた。
駐車場の灯りで車内を見れば、男の指摘通りハンドルが見える。
行くしかないんだよね…。
助手席のある右側には、あの男が立っている。
行きたくはないけれど、行かないと僕は帰れない。
「乗れよ」
そう言って助手席のドアを開けてくれる。
僕が助手席に収まったのを確認して、今度は外側からドアが閉められる。
これじゃあ、完全に女の子扱いだよ…。
「一人で乗れるのに…」
運転席に回る男の姿を見ながら、僕はこっそり溜め息をつく。
この男の考えている事が分からない。
強引かと思えば、こっちが驚くほど優しくなる。
けれど、言葉も態度も優しいとは言い難いのに…。
まして、僕にあんな事をして、完全にペースを乱してくれたこの男。
なのに、嫌いになれないのは何故だろう…。
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