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既に中心街を離れ、郊外にさしかかっている。
この男を信じた僕がバカだった。
こんな事ならあの時、多少の恥ずかしさを我慢して、電車で帰れば良かった。
なんて後悔しても遅い。
「送る気がないのなら、最寄りの駅で降ろして」
駅ならばタクシーも捕まるだろうし、最悪の場合でも電車がある。
「送らないとは言っていない。その前に鵜飼に頼まれた事を済ませたいだけだ」
「父に頼まれた事?」
そんなの、さっきの電話じゃ一言も言わなかったのに。
「お前が何を買うのか、俺に見届けてくれと言っていたな」
僕に言わなかった理由は、何となく予想できる。
あの時に話されていたら、僕は間違いなくこの男の車には乗らなかった。
それを見越して、父はただ送ってもらえと言ったわけね…。
自分の甘さが呪わしい。
僕一人だったら、絶対に買わない事を見透かされていたのに…。
だけど、買うモノの指定なんて、この男は知らないよね?
だったら、適当に本とCDを買えばいいや。
ついでに食料品も買えば、明日のご飯には困らないし…。
そんな僕の思惑は、この男の発言により、粉々に打ち砕かれた。
「もう1つ伝言がある」
何かイヤな予感。
「本とCD、食料品は対象外だそうだ」
絶望的。まさかこの男にまで、そんな伝言を頼んでたなんて…。
どうしよう、なんて考えているうちに、車はショッピングモールに到着してしまった。
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