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けれど、母は父と入籍をしないまま僕が産まれた。 今でこそ、一流企業の社長に納まった父だけど、母が病死した時には、その日を暮らすのがやっとの生活だったらしい。 その頃の僕の記憶は曖昧で、今一はっきりとは覚えていない。 そして、母は僕を自分の父親である相沢宗一郎に託した。 今にして思えば、それが母の罪滅ぼしだったのかもしれない。 そんな僕の養育権を巡り、父とお祖父様の間で一悶着あったみたいで、結局、まだ会社が軌道に乗っていなかったのを理由に、僕はお祖父様に引き取られた。 「そのスーツ初めて見るけど、相沢会長からの贈り物?」 そんなにイヤな顔をするなら、聞かなければいいのに。 「昨日、金井さんが届けてくれたんだ」 金井さんは、お祖父様の第一秘書を務める。 他にも何人か居るみたいだけど、面識があるのはその人だけ。 「パパも他人(ひと)の事は言えないけど、一人暮らしをするようになってから、プレゼント攻撃がひどくなったんじゃない?」 父の言う通り、この一年のお祖父様のプレゼント攻撃は目に余る。 僕の通う高校は、お祖父様の屋敷から電車を乗り継いでも、1時間以上はかかる。 かと言って、父の家からでも遠い。 それを思い、お祖父様が用意してくれたのは、学校まで徒歩10分圏内の、ワンルームマンション。
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