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戸籍上は他人だけど、父親として、忙しさの合間を縫って、こういう機会を設けてくれる事には感謝している。
だけど寂しさだけは、どうしようもない。
「暫くは仕方ないね。この後も会社に戻らなきゃいけないし…」
「あんまり無理しないでよ」
他にもっと言いたい事はあるけれど、ありきたりの言葉しか出てこない。
「大丈夫だよ。こう見えてもパパはタフだからね」
力瘤を作って、僕の心配を吹き飛ばす。
「送れなくてごめんね」
「平気だよ。時間も早いし、電車で帰るから」
シュンとなった父に、僕は心配をかけないように笑顔で答える。
「ダメだよ。ちゃんとタクシーで帰るように」
スーツの内ポケットから財布を取り出し、一万円札を数枚、僕の手に押し付ける。
どう考えたって、タクシー代にしては多すぎる。
こんな場面を見られたら、間違いなく援助交際をしていると思われるだろう。
「進級祝と誕生祝を一緒にして悪いんだけど、それで好きなモノを買っていいよ」
高校生の僕に、こんな大金を押し付けて、一体何を買えって言うんだろう?
まぁ、いいか。
本当に欲しいモノが見つかるまで、貯金しておこう。
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