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名案だと思っていたのに、父にはお見通しだったみたい。
「貯金はダメだよ。ちゃんと何か買うようにね」
釘を刺されてしまった…。
「今なら時間も早いし、店も開いているよね。本とCD以外で、何か買って帰るように。これはパパからの命令ね」
しっかり先手まで打たれてしまうとは…。
本当にこの人は、見ていないようで、ちゃんと見ているんだから。
ため息しか出てこない。
「分かった」
ようやく到着したエレベーターに乗り込み、押し付けられたお金を財布にしまいながら、僕は頷いた。
だけど、こんなスーツ姿で街を歩く気にはなれない。
「素直でよろしい」
そんな僕の思いも知らず、父は僕の頭を優しく撫でてくれる。
「子供じゃないんだからやめてよ」
気恥ずかしさから、つい父の手を逃れてしまう。
「パパにとって、悠貴はいつまでたっても子供だよ」
その言葉には、万感の想いが込められていた。
「そうだね」
言外に含まれた意味が分かるから、僕は素直に受け入れる。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
微かな振動が伝わり、エレベーターが一階で停止する。
「うん。父さんも体調に気をつけてね」
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