その殺し屋の『仕事』第二章

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天童の母親は、彼が十五の時に死んだ。 結核だったと言う。 チンピラだった夫が抗争で死んでから以降、醜業についてまでして息子を育て上げたが、成長を見ずして他界したと言う訳だ。 因みに、その後の天童を養ったのが、富岡組だった。 結局、極道者の父と同じ道を歩んだのだが、息子の方が優れた才覚を持ち、組長の富岡鉄造に気に入られ、やがて自分の組を持つ、 そして、今では上部組織を凌駕するまでに至った。 無法者のサクセスストーリーと言ったところだろう。 そう言う人生だから、人一倍、母に対する思慕の情が強いのかも知れない。 クールでドライな近代的ヤクザの代表として知られる天童も、文字通り人の子なのだ。 その人間味のある所に私は付け入り、彼の命を奪う。自分が、救い様も無い人手無しである事を今更ながら思い知る。 ま、そう思いながらも淑々と準備は進めて行く訳だが。 先ず、彼の母親が眠る墓地を探す事にした。 そこは郊外にある大型の霊園だった。 次に利用希望者を装い、墓の配置図を手に入れる。 そして現地への下見。 これには怪しまれ無いように『マンネ』も同行させる。 親の入る墓を探しに来た、夫婦者と言うシュチュエーションだ。
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