その殺し屋の『仕事』第二章

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毎度の事だが、本当に騒がしい所だ。 歓楽街のど真ん中、大型レジャービルの地下あるクラブは、常に超満員で、切れ目なくジェット戦闘機かおまけの大音量で、最新のクラブミュージックを垂れ流している。 ここに来れば、空軍基地が図書館並に静かな場所に思える。 その騒音の海の中で、無数の男女が溶け合う様に密着し、曲に合わせ体を激しくくねらせていた。 多分、踊っているのだろう。 広大な店内の一番奥、豪華なソファーに囲われた一画に彼は居た。 左右には金髪と黒髪の若い女、一瞬全裸かと思うほどのドレスを身につけている。 彼は眠たげな瞳で私の姿を認めると、優雅な仕草で片手を振り、 「退け、メス豚共」 と女達を遠ざけた。 女達は不満げな表情で席を立つ、その、空いた場所に彼は私を招き入れる。 華奢な指にはめられたドクロのシルバーリングが鈍く輝く、 彼こそが『マイスター』、様々な殺人道具を生み出す、死の匠だ。 私がその隣に座ると、先ほどの女二人に引けを取らぬ美貌が笑みを浮かべる。 「僕の愛する殺し屋さん、今日の御用は何かな?」 以前、私をそう呼ぶ事をたしなめた事があるが、何度言っても聞かす、諦めた。
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