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悪事が生業である者は、一つ所に居を構える事は許されず、呪われた民の様に絶えず漂泊し続ける事になる。
最悪の罪である「殺人」が仕事である私などは当然で、その仕事のオファーを受けたのも、ある街の小さなホテルの一室だった。
内線電話が鳴りディスプレイを見ると隣室からだった。私が『マンネ』と呼んでい居る女性の部屋だ。
取ると簡潔な言葉が飛だす。
「『コーディネーター』からメールが来ています。」
隣室に入ると、彼女はノートパソコンを見ている最中だった。
画面を見る為、邪魔な遅れ毛を掻き上げると、肩口までの黒髪が揺れた。
そんな艶な仕草を見る度、私は何時彼女と出会い、何時から彼女を『マンネ』と呼び、何時からアシスタントの様な仕事を任せ、裏世界に引きずり込む様になったのか考えるのだった。
そして、結局は思い出せずに思考を中断し、刺さって取れ無い棘の様な、小さな後悔の痛みを感じるのだ。
私は、記憶力に自信があるが、『忘却力』も負けては居ない。だからこの仕事で食って行けるに違いない。
「今日の二十三時に、・・・の交差点で待つ様にとの事です。」
彼女のその言葉で現実に帰る。
時計を見る。あと二時間も無い。
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