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数日がたった。まれにみる多数の前科持ちの俺の裁判。勝ち目のない裁判に名乗りをあげる弁護士なんているはずもない。あきらめた日の夕方だった。
ガシャン――
豚箱の鍵が開けられた音が響く。顔をあげると解錠したばかりで、こちらを見ている監視員がいた。
「面会だ。」
母親が弁護士でも連れてきたのだろうか。男はそういうと、俺を連れ出した。そして、よく刑事ドラマなどでみる小部屋に通された。ふと、面会にきた人間をみた。母親ではなかった。中年の男がそこに座っていた。
「お、おお来たか。杉谷君!!!!」
俺の顔をみた瞬間、満面の笑顔で男は笑った。中年男はくたびれた茶色のスーツを着て、白髪混じりの髪の毛をぎこちなく後ろにやっている。
「誰ですか?」
気のない声で中年男に問った。
「やあ、私は世田谷区の端っこでしがない弁護士をやっているんだ。これを。」
男はガラスの隙間から名刺を差し出した。
柳生法律事務所 柳生 昭夫
名刺にはそうかかれていた。
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