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湯気がヤバイさんの眼帯に届いた。
僕の瞳に写るのは、湿気によって水分を得たことによる、眼帯の移動である。
僕の脳裏を過るのは、鮮明な父、母、妹の死の映像。
この時、僕の瞳は、猫科動物のごとく肥大化していたと聞いたが、それが事実であったかは定かではない。
眼帯のずり落ちは、ヤバイさんの邪眼を開放させた。
むーざんむーざん
゙やばい゙と飯をくおーたらー
あーかい゙まがくし(目隠し)゙さーいた
むーざんむーざん
───後に民謡となった歌の一節であるが、
その歌詞が、邪眼を浴びた僕のことを指していると気付く者は、あまりにも少なかった。
目を開けると、ヤバイさんが瞳に飛び込んできた。
眼帯をしている。邪眼は封印出来たようだ。
むくり、と僕が身体を起こすと、
ヤバイさんは安堵の表情を浮かべた後、しきりに ごめんなさい ごめんなさい と言った。
シチューはまだ冷めていない。
「いや、ヤバイさん。
謝ることなんて全然無いよ。
だって、僕はヤバイさんの眼が唯一聞かない人間なんでしょ?
だからヤバイさんはうちにきて、僕と生活を始めたわけだけど。
だったら、たまにこういうアクシデントがあっても、
おかしくはないでしょ。」
僕の言葉を聞いた彼女の表情から、
スッと、何かが消えるのを感じた。
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