56人が本棚に入れています
本棚に追加
━━━そうして、結局『ヤバいさん』は
僕の家に住み込みで働くことになった。
「それじゃあ、お別れだ。お前はお前の思う通り、精一杯やればいい」
家の外、いつもより風が強い寒空の下で、総理さん・ヤバいさんは別れの挨拶を交わす。
『ヤバいさん』を届けた総理さんにもうこの家にいる余裕はない、伊達に総理大臣をやっているわけなく、山のような量の仕事が彼を待っているのだ。
『僕』は家の中から窓を通して二人を見ている。さっきからヤバいさんは頷いてばかりである。
「何だ、そんな顔をするな。別に二度と会えなくなる訳じゃあないんだから。
へ?私が寂しくなさそうに見えるって?
そんなことあるもんか、娘に嫁がれて悲しまない父親なんかいるもんかい。」
ヤバいさんはさっきみたいに頬を赤らめる。まるで林檎のようだ。
「そんなんじゃあない?罪滅ぼしがしたいだけだって?
ハハハ、嘘をつけ。年頃の女の子が罪滅ぼしの為だからって、野郎の独り暮らしに押し掛けてくるわけあるまい。
━━━ま、月並みな言葉だが、頑張れよ。お前ならきっと頑張れる。何せお前は私の娘なんだからな。」
総理さんは言い終わると、高そうな外車に乗り込んで、帰っていった。
その様子にヤバいさんは、その羽のような手を振って「またね」と伝える。
最初のコメントを投稿しよう!