娘は父と言葉を交わす

3/6
55人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
━━━そうして、結局『ヤバいさん』は 僕の家に住み込みで働くことになった。 「それじゃあ、お別れだ。お前はお前の思う通り、精一杯やればいい」 家の外、いつもより風が強い寒空の下で、総理さん・ヤバいさんは別れの挨拶を交わす。 『ヤバいさん』を届けた総理さんにもうこの家にいる余裕はない、伊達に総理大臣をやっているわけなく、山のような量の仕事が彼を待っているのだ。 『僕』は家の中から窓を通して二人を見ている。さっきからヤバいさんは頷いてばかりである。 「何だ、そんな顔をするな。別に二度と会えなくなる訳じゃあないんだから。 へ?私が寂しくなさそうに見えるって? そんなことあるもんか、娘に嫁がれて悲しまない父親なんかいるもんかい。」 ヤバいさんはさっきみたいに頬を赤らめる。まるで林檎のようだ。 「そんなんじゃあない?罪滅ぼしがしたいだけだって? ハハハ、嘘をつけ。年頃の女の子が罪滅ぼしの為だからって、野郎の独り暮らしに押し掛けてくるわけあるまい。 ━━━ま、月並みな言葉だが、頑張れよ。お前ならきっと頑張れる。何せお前は私の娘なんだからな。」 総理さんは言い終わると、高そうな外車に乗り込んで、帰っていった。 その様子にヤバいさんは、その羽のような手を振って「またね」と伝える。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!