119人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
また、目の前で人が死んだ。
どうすることもできなかった。
というよりも、やっと見つけた『正常な人』を失ったことが、何より心細い。
僕も怖かったのだ。
土田先生を見つけた時、異常がないか物陰から様子を見ていた。
一人で歩いていた時も。
生徒らしき人が死んだ時も。
だが、今、後悔している暇はない。
辺りを見回し、脱出に使えそうな自転車があることに気付く。
「これで、逃げられる―――」
植え込みに置いてあった石を広いあげ、鍵を壊した。
さっきまで、徒歩で移動していたので、疲れ切った身体で脱出するには、調度良い。
サドルに跨がり、思い切りペダルをこぎだすと、思った通り疲れた身体でも十分の移動速度が得られた。
この調子でいけば、10分ほどで、村を抜けられるだろう。
あとは、誰にも会わないことを祈るだけ。
「早く、早く」
夢中になっていた。
一人の不安も吹き飛ばすように、軽快に走る自転車。
ペコン。
どこかで、またあの音がする。
最初のコメントを投稿しよう!