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いつもは近いはずのスーパーが、かなり遠く感じていた。
疲れているせいか、それとも感覚が麻痺しているせいか。
「着いたぞ」
スーパーの中は閑散としてはいたが、ウィンという自動ドアの音が、『今現実にいる』という実感と少しの安心を与えてくれる。
私達は、とりあえずカラカラに渇いた喉を潤すため、ペットボトルの水をガブガブ飲んだ。
「くはぁー。これで、少しは回復できたな」
「そうだね。あとは……何か食べないと」
段積みになっていた買い物カゴを取り、めぼしい物をガンガン入れていく。
「一回、やってみたかったんだよ」
竹下君は唐突にそんなことを言う。
「えっ、何を?」
「好きなものを、好きなだけって。家……貧乏だからな」
そう言うと、少し照れくさそうに頭を掻いた。
口にしたのは水だけだが、少しは気持ちに余裕ができたのだろう。
何にせよ、これで『籠城』(ろうじょう)の準備はできた。
あとは、助けを呼び、待つだけ。
一種の、賭けだ。
私達が死ぬか。
生き延びるかの。
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