4.『影』

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      「いや、ごめん。気のせいかもしんないから……」 「だから、何!」 「わ、わかったよ。あそこ、誰かいないか?」  そっぽを向きながら指差した―――先。  小さな黒い影のような何かが、保健室のドア越しに見える窓の向こうで揺れている。 「なんだろ?」  背筋に悪寒が走る。  向こうに見える『黒いそれ』は、じっとこっちを見ていた。  まるで、捕まえたばかりの虫を眺めるように。 「やばい……よな? 見てる……よな?」 「きあぁぁぁぁ!」  精一杯の悲鳴をあげた。助けなど、来るはずもないのに。  いや、本で読んだことがある。  『人は、極度のストレスが溜まると、奇声や、大声をあげるのだ』と。  まさに、それだった。 「逃げるぞ!」  とっさに、そこにあったメモ紙のようなものを掴み、窓から飛び出した。  走る。  放心状態でも、何故だか足はまともに動いている。  逃走本能とは、とても優秀なのだと、今知り得た。  今は、どうでもいいことなのだが。      
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