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「いや、ごめん。気のせいかもしんないから……」
「だから、何!」
「わ、わかったよ。あそこ、誰かいないか?」
そっぽを向きながら指差した―――先。
小さな黒い影のような何かが、保健室のドア越しに見える窓の向こうで揺れている。
「なんだろ?」
背筋に悪寒が走る。
向こうに見える『黒いそれ』は、じっとこっちを見ていた。
まるで、捕まえたばかりの虫を眺めるように。
「やばい……よな? 見てる……よな?」
「きあぁぁぁぁ!」
精一杯の悲鳴をあげた。助けなど、来るはずもないのに。
いや、本で読んだことがある。
『人は、極度のストレスが溜まると、奇声や、大声をあげるのだ』と。
まさに、それだった。
「逃げるぞ!」
とっさに、そこにあったメモ紙のようなものを掴み、窓から飛び出した。
走る。
放心状態でも、何故だか足はまともに動いている。
逃走本能とは、とても優秀なのだと、今知り得た。
今は、どうでもいいことなのだが。
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