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「ごめんなさい……気にしないで下さい。本物の桜もみれたし、良いレポートの参考になりました。わざわざ付き合ってくれてありがとう」
茜は微笑みながら言った。
「いや、全然いいよ。というより本当に大丈夫? 涙目だったじゃない!」
「ありがとう。でも本当に大丈夫です。トワもレポート頑張って下さいね」
トワはまだ腑に落ちなかったが茜もいざとなったら話してくれるだろうと思い、もう深くは聞かない。
「うん! がんば……ってああぁぁぁ!」
トワは突然大声を出した。
その声に思わず茜も目を丸くする。
「今日は私……急いで帰らないといけない日だった!」
今まですっかり忘れていたが、トワは放課後大事な用事があったのを思い出した。
「いけない! 急がなきゃ。ごめん茜、急用だっ! 先帰るね」
「はい。気をつけて。急ぎ過ぎて転ばないように」
「転ばないよ! んじゃあ本当にごめんね。ばいばい」
トワはそう言い大きく手をふると、庭園の道を慌ただしく走って行った。
「……そうですね。今日はゆかりさんの命日でしたね」
茜はトワが走り去る後ろ姿を見つめながら小さく呟く。
「私達はいつも自分の大切なものを救えないのですね……。何度後悔しようとも……」
ガラスケースの中で桜の花弁が一枚はらりと落ちた。
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