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「そうか」
トキは魔女に睨まれても何事もなかったかのように歩きはじめた。
「これはある奴の受け売りなんだけどな、言葉を氷山に例えるとしよう」
「いきなりなんだ!?」
「まあ、聞いてくれ」
トキは後ろを歩く魔女を振り返りながら言った。
「氷山の水面に表れている部分は全体積の約7分の1だと言われている。つまり7分の6は水面下に沈んで見えないんだ」
トキは明るく照らされた木々の間をゆっくりと歩いてゆく。
森のどこかから澄みきった鳥のさえずりが聞こえてきた。
「つまり、今の俺達は感情や思考の約7分の6は言葉で表すことが出来ないことになる。正確には表すすべがない」
「だから何が言いたいんだ」
魔女は怪訝そうに首を傾げた。
「もし仮に人類とその他の動物達との差が言葉を話せることであるとして、この先なにかしらの大革命が起こって残りの7分の6の思考や感情がすべて言葉にしてしまえるとする。そしたら人間は今よりもっと超人的な進化をするかもしれない。魔女なんか目じゃないぐらいのな」
「…………」
顔をしかめる魔女に、トキはいたずらっぽくにっと笑った。
「だから、まだ7分の1しか喋れないうちに仲良くなっといた方がいいぞ」
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