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「トワはこの庭園に唯一"保管"されている花があるのを知っていますか?」
綺麗に一列に並べて植えられた花の間を歩きながら茜がトワに尋ねる。
「いや、知らないけど。それがどうしたの?」
茜は左右を花で囲まれた細道を通りながら庭園の奥へ奥へと進んでゆく。
トワも遅れないように茜の後ろからついて行った。
「この国にはもう咲くことのない花。その花の幹の一本がこの庭園の奥に保管されています」
そう言って茜は急に立ち止まる。
「あれです。トワ」
茜は道の奥にあるものをすっと指差した。
「な……に? あれ?」
この庭園の色彩豊かで穏やかな風景には全く相応しくないものがそこにはあった。
周りとの調和を一切拒絶し、しかしどこか風景に身を隠すように置かれた丸いガラスケース。
その中には太くしっかりとした大きな枝に鮮やかなピンク色の花を咲かせた幹が立っている。
まるでそこだけ時間が止まっているかのように、そのガラスケースの周りの雰囲気は見る人に根源的な恐怖を与える異質さえあった。
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