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女はひたすら 穴を掘る ただひたすらに 穴を掘る 暗くて 暗くて 暗くて 暗い そこに女の、濁った目だけが らんらんと らんらんと 鈍い光をはなっていた 愛した男に また会いたいと それだけを求め 穴を掘る 女は知っているのだろうか そこに埋まっているものは かつて 愛した男だったもので 愛した男ではないのだと 女は知っているのだろうか 女は知っているのだろうか そして女は 穴を掘る 最初は、鍬で掘っていた 穴が大きく、なるにつれ 我慢できなくなったのか 狂おしいほどに 女は鍬を投げ捨て 自らの手で 掘って 掘って 掘り続けた 女の指先から血がにじみ 爪が剥がれ もはやそれとはわからぬ指で 女は 愛した男、だったものを 蛋白質と かるしうむと 脂肪と細菌の塊を 大切そうに掬い出し 白い何かも残らず拾う 女はそれを 袋に詰めて 大切そうに 袋に詰めて 袋を 愛と 男とで いっぱいにして 愛おしい腐臭を 胸いっぱいに嗅ぐと やっと会えたねェ、あンた と 小さく言った
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