2つの眼球

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 回復薬や砥石といった基本的な道具と、ギルドより支給された支給品用秘薬や活力材、各種ナイフをアイテムポーチへと詰め込む。 最後にギルドナイトの運んだもう一つの木箱を開け、中に安置されていた黒龍剣を取り出した。 黒龍の角を使い、二又に別れた刃を持つ剣と、黒龍の甲殻をそのまま盾にしたかのようなそれらは無意識の内に触れる事を躊躇わせた。 禍々しい気を放つそれをハーヴェルトはかつて黒龍を祀る神器であったと言った。 『大地の龍脈より命を受け御神体の北門へ注ぐ者也』 ハーヴェルトは黒龍剣と共に発見された文献にあった一節を聴かせていた。 時に人は偉大な自然が生み出した生き物を崇める。 だがあれは、崇めていいようなものではない。 今になってハーヴェルトの皮肉が少しづつ理解できた。 「主を祀る神器でその主に牙を向く…たしかにいい皮肉だな」 気付けば俺の肩も小刻みに揺れている。 この防具にしてもそうだ、人は龍を目指し、龍を模倣し、そして模した身をもって龍を殺す。 その皮肉が妙に嬉しくて、今まで黒龍剣に感じていた恐れや嫌悪は消え失せていた。 盾を腕に填め、剣を腰に携えると、俺はいよいよ荷台から飛び降りた。 常に馬車が待機できるような地ではない為、撤退の際は城門の前に放置される荷台に積まれた信号弾を撃ち上げる事になっている。 例え何らかの理由で撃ち上げられなくても、一週間後には後続のパーティーをここに運ぶ為、ついでに安否確認をできるという訳だった。 もっとも、奴を倒す事なくここで無事に一週間を越せるとは思っていない。 足早に去ってゆく馬車の後ろ姿を見送り、俺は都市内部へと足を進めた。
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