2つの眼球

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 その城に王候貴族と云ったきらびやかなイメージはなかった。 飾り気のない無骨な外観が強烈な威圧感を生み、その様はまさに要塞であった。 そして城壁の内側は広大な開けた空間が城門一つ跨いで連なっており、さながらコロシアムを想わせた。 コロシアムの至るところに喰い散らかされたハンター達の骸が彼らの得物と共に転がっている。 相棒の死を悔やむように大地に突き刺さった武器はさながら墓標だ。 そして乱立する墓標の中心に、奴は居た。 羽を畳み、干し肉をしゃぶるように両手でハンターの骸を抱え、貪り喰う醜悪な姿。 やがてその水晶の瞳は俺を映す。 「やっと気付いたか…」 対峙への悦びに口元が歪んだ。 黒翼の口が開かれ、鋭く尖った牙と赤黒い舌が覗いた。 俺を見つめたその瞳は闘争と捕食の喜びに蘭々と輝き、狂気を帯びる。 そして奴は長大な黒い翼を広げ、けたたましい咆哮を空に轟かせた。 それが開戦の合図だった。 牙が立ち並ぶ口が開かれ、喉奥で炎が煌めき、もたげた首をさげる一連の動作。 何も考える必要もなく、その場から体を退避させる。 直後、俺の居た場所を通り越し、黒翼の放ったブレスが入って来た入口へと激突するのだった。 それは城壁の一部を粉々に吹き飛ばし、完全に退路を塞いでしまった。 狙ってしたものか、或いは偶然にしても出来すぎであった。 「はっ……元より退くつもりなんてなかったがな!」 腰に手を伸ばし黒龍剣を握る。 手にした黒龍剣からはまるで鼓動のようなものを感じた。 神器としての性か、同族を前にしての高揚か、どちらにせよそれが心地よい。 「行くぞ」 呟いた言葉は自身に向けたもの、言葉の通じぬ獣へ向けたものではない。 その言葉を合図に体を走らせた。 みるみる縮まって行く距離。 黒翼は二本の脚で体を起こし、俺の接近を阻む事もなく、走り寄る姿を見つめていた。 きっと奴は俺に外敵という概念は抱いていない。 だが、今はその余裕に付け入る隙を感じた。 「はあぁぁぁぁ!」 掛け声と共に疾駆する勢いを殺さずに大地を強く踏み込んだ。 身体を飛び上がらせた瞬時、黒龍剣を天高く構え己が重量と重力、そして加速の勢いを込め、黒翼の胸へと刃を振り下ろす。
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