2つの眼球

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 まるで金属の表面を撫でるような感触が剣越しに伝わる。 叩き付けたその勢いのまま縦一門、胸部から腹部に至るまでを切り裂く。 着地の勢いで跳ねるように後方へ立ち退くと、直後あの鋭い爪が降ってきた。 「どうした、当たらんぞ」 まるで言葉を解したように黒翼は忌々しそうに唸りをあげる。 だが唸りをあげたのは俺も同じであった。 跳躍の勢いと全体重を乗せた一撃は甲殻の表面を軽く引っ掻いた程度であった。 「……だがいける」 手の中で鼓動する黒龍剣はあれほどのものを切り付けながらまるで刃こぼれもせず、折れる気配もない。 「次」 その声で今度は脚の付け根へと接近する。 以前龍刀で切り付けた傷を狙う。 その刃は骨にまで及ばなかった龍刀だが、龍殺しによる斬撃の傷は癒えず未だ赤い血を垂れ流していた。 俺を正面に捉えようと体を向ける黒翼だが、そのなんの意思も持たぬ足踏みでさえ巻き込まれれば即致命傷へと繋がるだろう。 足踏みを警戒しつつ今度は左脚の付け根へとすかさず二撃を加えた。 傷が癒えず腐りかけているのか、傷口周辺の肉質は柔らかく、肉を断つという確かな手応えが帰ってきた。 振り払おうとかざした爪を掻い潜り更に一撃加え、その場を離脱する。 「ははっ、痛いか?」 痛みなどあまり感じた事がないのだろう。 唸りに怒り以外のものが混じる。 そして俺は先の二回の攻撃で奴の行動パターンに確信を持った。 「やはり自分から仕掛けようとしない」 砦での戦闘で得た経験と、先の攻撃で感じたのが奴の行動は迎撃を起点にしている事だった。 防御力を盾に相手の攻撃を誘発させ、龍の目が持つ動体視力と反射神経をもって迎撃する。 並のハンターならば攻撃が届いた瞬間にあの爪に貫かれるだろう。 前回の戦闘で多少なり奴の攻撃を避せたのは奴と同じ能力とハンターとしての勘が生かされた結果だった。 「種が分かれば何も恐れる事はない」 同じ反応速度でこちらの先攻が確定ならば、いかな防御力であっても必ず喰い潰してみせる。 龍兵の能力と黒龍剣の龍殺しがあれば、可能だった。
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