2つの眼球

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「…このままでは勝てないな」 現状の攻撃方法のままなら勝ち目は薄いだろう。 優勢でいられたのはあくまで黒翼が積極的に攻撃を仕掛けなかった為であって、奴が本気で排除に乗り出せば俺を殺す事など造作もないのだろう。 「だが…ただ殺されにここに来た訳ではない」 再び黒龍剣を引き抜き黒翼を正面に構える。 殺された故郷の人々、兄貴、姉さん、皆の死に顔を二つの目に焼き付け、鈴の抵抗の証も今この目に焼き付けた。 それに、もし許されるのなら仲間達にもう一度会いたい、彼女にもう一度会いたい。 「……危険を冒してこそ…編み出せる戦いがある」 雑念を捨て、精神を集中させる。 今頭の中にあるのは、奴を倒す方法のみ。 精神の鎮まりと共に視界は色を失う。 龍兵は龍と同じ動体視力と反射速度を持つとハーヴェルトは語った。 この色のない世界が奴の見る世界であるなら、俺はこの世界で戦う術を知っている。 仁王立ちで睨みつける俺を黒翼は睨み返し、咆哮をあげ再びその四肢で大地を揺らした。 喰い殺し、潰し殺さんと迫り来る禍々しい気を帯びた漆黒の巨体。 だがその場から後退はしない。 黒龍剣を下段に構え、俺は大地を蹴った。 疾走する先にはあの黒い巨体が死を携えている。 だが、その動きは鈍重。 俺は体感時間を引き延ばす。 1秒を2秒に、2秒を4秒に。 体感時間を引き延ばす事で猛然と迫るその勢いさえ限りなく静止に近づけた。 比例して俺の動きも静止へ近づく。 だが遅くとも構わない、まともに接触さえしなければそれで十分だった。 開かれた大顎は俺に喰いつかんと眼前に迫る。 食いつかれる寸前に大地を蹴り込み、その鼻先へと着地する。 その動きに反応し、顎が閉じられるが、既に俺はそこにいない。 持った剣を逆手に構え、奴の四本ある角の内一つを掴み、その場に体を固定した。 狙うのはただ一点、奴と俺とを繋ぐ能力を司る金色の瞳。 「はああぁぁぁぁぁぁぁ!」 叫びをあげ、黒龍剣を黒翼の眼球へ突き入れた。 足元で響くけたたましい悲鳴。 その叫びの中で、水晶体を貫く硬い手応えの後、腐肉を切り裂くような柔らかな感触が俺の手に伝わった。
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