2つの眼球

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 目玉に突き入れた黒龍剣を更に抉り回す。 痛みに耐えかねた黒翼は首を振り回し、その勢いで俺を頭から跳ね退けた。 飛ばされた俺は空中で身を翻し、指先の鋭い爪とつま先にある鉤爪を地面に食い込ませ、勢いを減速させる。 大地には爪を引き摺った跡が何メートルにも渡って残された。 「はははっ……取ってやった!」 歓喜が俺の肩を大きく揺らした。 握られた黒龍剣には突き刺した黒翼の眼球が剣の半ばで串刺しになっていた。 水晶体の中からはどろりとゼラチン質が溢れ、黒い刀身に白濁とした白を塗りつけた。 串刺しになった眼球を振り落とし、黒翼に視線を向ける。 そこには痛みでもがく奴の姿があった。 「ははははっ、これだけでは終わらんぞ、もっと痛めつけてなぶり殺してやる」 ゆっくりと、俺は黒翼に向かい歩き出す。 死んだ人々の悲鳴は今でも思い出す。 彼らの苦しみはこんなものではない。 迫る俺を残った眼で睨みつけた黒翼は、再び羽ばたき空へと飛翔する。 「またブレスか…」 しかし、それはブレスを吐く為ではなかった。 落下の勢いを利用し、俺に向かってその巨体を滑空させてきたのだった。     「なに?」 予想外の行動に反応が遅れた。 いくら時間を刻もうとも落下の勢いをつけたその速度は避けきれるものではなかった。 なんとか大顎には食いつかれずに済んだものの、奴の伸ばした腕は俺の身体を鷲掴みにした。 「…がはっ……」 苦悶と共に口から血が吹き出す。 剛力に締め付けられた身体からはあちこちでばきりと音がした。 未だに締め殺されずに済んでいるのはドラゴンSの防御力のおかげだろう。 だが、それも長くは持たない。 全てを諦めて楽になろうとする意識を必死で食い止めた。 しかし、圧倒的な握力を前に身動き一つ取る事はできない。 「ぐっ……ぅっ…」 あまりの握力に口から臓物が逆流した無惨な自身の姿を想像した。 だがそれは訪れなかった。 身体は急に圧力から解放される。 しかしただ解放されただけでなかった。 眼下には巨大な城壁が見えた。 「なるほど、糞っ垂れめ」と心の中で呟く。 黒翼は滑空したそのままの勢いで、俺の身体を城壁へと激突させたのだった。
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