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気がつくと俺は瓦礫の中で倒れていた。
盾を付けた右腕はおかしな方向に曲がり、黒龍剣は手から離れ、俺の遥か前方に転がっていた。
「剣…を……」
身体を起こそうとするが、岩のように固まってぴくりともせす、伸ばした腕もすぐに力なく垂れ落ちた。
口からは絶えず血が流れている。
視線の遠い先では黒龍が着地し、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「早く……剣を…」
しかし今度は腕さえ上がらなかった。
「ちくしょう……結局ダメなのかよ……今回はいけると」
そして言葉さえ吐けなくなった。
それでも思考はできた。
ああ、なんて無様なのだろう…ハーヴェルトに仲間達が例え来ても決して行かせないようにと頼んでおきながらこうして醜態を晒している。
エリシアが教えてくれた剣の腕も生かせず、鈴が死と引き換えに俺を逃がしたというのに…。
無念が雫となって頬に流れた。
何よりも、彼女は怒っているだろうか?恨んでいるだろうか?泣いていないだろうか?悲しんでいないだろうか?
きっと全てを想っただろう。
彼女が俺の子が欲しいと言った時、心から俺は嬉しかった。
血の繋がった家族の居ない俺にもやっと本当の家族ができるのだと、もう独りじゃないのだと、信じてもいない神に初めてありがとうと心の中で言えた。
一緒に居て守ってやりたいと思えた、一緒に居て幸せを感じれた彼女の元に……俺は帰りたい。
もう一度彼女を抱き締めて二度と離したくない。
「……生…きる…んだ……生きて……っ」
動かなかった左腕が徐々に上がり始める。
そして這うように、俺は遥か遠くの黒龍剣を目指した。
だが。
黒翼の喉奥で新たに生まれた小太陽が煌めくのが霞んだ俺の瞳に映る。
「……生きるんだ…俺は…」
それでも諦めない。
前進とも呼べぬ、或いは止まっていると言えるのだろう、それでも身体を突き動かした。
生きて、リーアに会うために。
だが視界は徐々に、紅蓮の赤に染まっていった。
そして響く轟音。
黒翼の放ったブレスは瓦礫ごとフロストを吹き飛ばしたのだった。
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