赤い獣

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 何故だろう、体が軽い…俺は死んだのだろうか? 俺は自問する。 だが、真っ暗だった視界に微かな光が見えた。 その先には黒翼が居る。 …倒さなくては、リーアの元に帰るために。 そう思い体を動かすが、何故か痛みは消えていた。 それどころか疲労も消え、何も感じない。 ただ俺が感じるのは一つ、生きたいという衝動だけであった。 太陽は完全に沈み、辺りは闇に覆われた。 その闇の中で黒煙をあげて燃え盛る炎を見つめ、黒翼は勝利の雄叫びをあげた。 だが、動く者のいないはずの灼熱の地で瓦礫が崩れた。 そして炎の中から浮かび上がる一つの人影。 それは瓦礫を押し退け、一歩一歩黒翼の元へと歩み出す。 やがてその姿は黒煙を振り払い、黒翼の眼前へと現れた。 その姿を前に、龍であるはずの黒翼が一歩、その脚を後退させた。 業火に身体を焼かれながら現れたのは紛れもなくフロストであったが、同時にそれは先ほどまでのフロストではなかった。 獣のような唸りをあげる彼の目はかつての赤ではなく、黒翼と同じ金色の瞳に変わっていた。 フロストは折れ曲がった右腕に左腕を運ぶ。 直後ばきりと鈍い音を起て、右腕は無理矢理元に戻されたのだった。 その右腕を眼前にかざし、かつての動作を確かめると、フロストはおもむろに両手を大地に接地させる。 「グガアアァァァ!」 その叫びを合図にフロストの体が弾けた。 低姿勢で疾駆するその姿は獣を連想させる。 接近したフロストに黒翼は爪を振りかざし迎撃するが捉える事はできない。 足元に周り込んだフロストはその爪先を龍刀が与えた傷口へと力任せに捻り込むと、肉の内側から甲殻を引き剥がすのだった。 痛みに激昂し、無我夢中で爪を振り回しフロストを吹き飛ばした黒翼だが、甲殻が剥がされた箇所からは赤々しい血が大地へと流れ出ていた。 一方吹き飛ばされたフロストは城壁の上に着地すると、唸りながら黒翼の様子を伺っていた。 雲の隙間からは月が顔を出し、フロストの姿を照らす。 月光に照らされたその姿は紛れもない獣であった。
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